避難先について

引越

シェルター?母子生活支援施設?

暴力を受けた際に、いっそのこと、今このまま逃げようか、という思いがよぎったり、今度同じようなことがあったら、シェルターにかくまってもらおうか、というふうに考えたことは何度もあったのですが、 緊急の避難先として、シェルターや母子生活支援施設(母子寮)などに一時的に居させてもらうということは、一度も経験しませんでした。
それは、こういった施設への避難は、
・とりあえずの安全は確保できても、その先のことが想像できず、見通しが持てない。
・着の身着のままに近い状態で逃げるかたちになる。
・行動が大きく制限される。
といった印象を持っていたために、私はシェルター等に逃げるという手段は選ばなかったのだと思います。

自治体の相談員さんから、この市内には母子寮がない、との情報を得ていたことも、判断材料の一つとなりました(民間のシェルターはあるのかもしれませんが)。
少なくとも市外へ出ないといけないとなると、なおのこと、今あるすべて(持ち物に限ったことではなく、この土地での生活基盤、子どもの教育、医療など、あらゆる環境)を捨てて行く覚悟ができてからでないと、と思うと、一時避難の施設へ行くことは、今の(当時の)私にはまだ出来ないな、と実行に移せませんでした。

賃貸住宅

もし避難をするなら、あらかじめ準備はしておいて、出られる状態になってから、きちんと“引っ越し”をしたいと考えていました。

引っ越し先を決めるにあたって、まず、できれば他の自治体へ転出することは、なるべく避けたい事情を抱えていたので、いま住んでいる市内での暮らしは継続することにしました。
そこで、相手方と生活圏が被らないように、当時住んでいた北部エリアから、相手が普段来ることのない南部エリアへ移ることにして、検討している地区の園に、見学を兼ねて実際に足を運び、「まだ未定だけど、こういう事情で転園の可能性がある」という旨を伝え、「了解しました。もし決まったら、また連絡ください。」と、受け入れOKの返答をいただきました。

それから、南部エリアで賃貸物件を探しましたが、ここがやはり一つの難所ではないかと思います。会社勤めなどをしていて毎月一定額のお金が入ってくる状況なら、また違うかもしれませんが、私の場合は専業主婦の状態だったので、まるで相手にされず、やはり一般の賃貸物件に避難するのはあきらめなければいけないのだろうか、と子連れ主婦がDVから逃れようとする場合の、現実の厳しさを突き付けられた気がしました。

幸い、親切な不動産屋さんと家主さんに恵まれ、私たちのような親子でも、部屋を貸していただけることになりました。ただ、借りられた物件が、もともと想定していた地区から少し外れたため、園区が変わって、予定していたのとは違う園に転園する結果となったり、相手方が通勤等で使っているであろう幹線道路付近も生活道路の一部となり、時間帯が合えば鉢合わせる可能性もないとは言えない環境です。

のちに保護命令申立ての準備でお世話になった、配偶者暴力相談支援センターの担当者の方によると、本来は、よその都道府県で、なおかつ知り合いや親戚縁者が一人も住んでいない都道府県に逃げるのが大原則だそうで、同一都道府県内どころか、同一市内に引っ越すなんて近すぎる、と言われました。

加害者と同一市内での生活

自治体の相談員さんと、子どもの通園先のごく一部の先生方(園長・主任・担任など)以外、誰にも知られずに引っ越しており、今も住基法上の支援措置を受けて、住所(住民票)が開示されないようになっていますが、 相手方は、ご近所に聞いて回ったり、以前の通園先に電話をして転居先を探ろうとしていたことが分かっており、現住所が何かのきっかけで相手方の耳に入ってしまうことのないよう、以前の生活圏だった北部エリアの知り合いには、なるべく今の住所を知られないよう願って暮らしていますが、現実はそうもいきません。

転園したその日に、なぜか、転園先とは別の園に通っている子のお母さんから、「○○園にいるんだって?」とLINEが来たときには、園区・校区を超えたママ友ネットワークの脅威は想像以上のものだと感じました。

市全体から大勢の人が集まる大きなお祭りは、誰に会うか分からないので、怖くて行かなくなりました。子どもがたくさん来そうなイベントも、なるべく避けつつ様子を見ながら、という感じです。何のリスクもないはずだと思い込んでいたイベントで、想定外のことがあり、行くんじゃなかった、と後悔したこともあります。

習い事は、園区や校区の枠組みを超えた場なので、通わせるのは神経を使いますが、入ってみないと分からない部分もあります。実際、引っ越し前に在籍していた園の同級生に再会しています。もしかすると、他にも誰か知り合いがいて、こちらが気が付いていないだけ、ということもあるのかもしれません。

不特定多数が目にする可能性のある写真に、うっかり写ってしまわないように、といったことにも気を遣います。

引越後に気付いた盲点

小学校に上がれば、市全体の各小学校から児童が集まるような行事というのもあります。以前住んでいた学区からは、誰も知り合いの参加はありませんでしたが、その他のいくつかの小学校からは、何人か知り合いが来ていました。

公立の園の場合、先生には異動があります。また、近隣のさまざまな学校・園同士(幼稚園・保育園・こども園・小学校・中学校・高校等)で交流が盛んに行われており、自分が在籍しているところではなく、交流相手の園や学校のほうに、以前の知り合いが居る場合があります。息子が小学校1年生のとき、小1と幼稚園年長との交流で隣の幼稚園を訪れた際、以前の通園先におられた先生が一人、隣の幼稚園に異動されていたことが判明しました。お互いすぐに気が付いて、楽しくお話しできたようですが、この先生は、私たちが引っ越しをしたことはご存じなかったはずです。

最近驚いたのは、以前の通園先の下の学年にいた子が、息子がいま通う小学校に入学していたのが分かったことです。あちらは息子のことをよく覚えてくれていて、少し離れた距離からでも、後姿を見ただけでも、「○○くん」ときちんと名前を呼んで声をかけてくれるのだそうです。このように、引っ越し前後のどちらも住む地域が被るという人が出てくる可能性もあります。

市内にとどまったことによるメリットはたくさんあります。
でも、いくら生活圏を分け、通園先・通学先を変えても、どこでどうつながってしまうか分からないきっかけを、常にたくさん抱えて生活することになるのが、同一市内に住むデメリットですね。
幸い、これまでのところ差し迫った身の危険を感じるような目には遭っていませんが、リスクが高いことは事実だと思います。