DVの夫から逃げる場合、当面の間(6ヶ月)の身の安全を確保するため、また母子家庭に準じた扱いを受けられるようにしたり役所関連の手続等の際に証明として使用する機会もあるため、保護命令を発令してもらえるに越したことはありません。ただ、申立てが認められなかった場合のリスクも大きいと考えられるので、慎重にやる必要があります。
私の経験談をシェアしたいと思います。
申立てに至るまで
DVから逃げた後、自治体の相談窓口の方から、保護命令申立や離婚調停について法テラスに相談するよう指示されたので、法テラスが予約をとってくれた弁護士の方に会いに行きました。
「相談している自治体窓口の方から、保護命令申立するだけの覚悟はあるかと言われていますが、私が経験した程度の暴力は、申立てに値する状況に該当しますか? 保護命令申立の実際のところはどんな感じなのでしょうか?」と尋ねてみたところ、「保護命令って別に、申立てをするかどうか躊躇するような、そんな大層なものじゃないよ」との回答(…必ずしもそうではないと思うのですが…。申立てをするからには、それなりの覚悟は必要、と私は考えます。)。そして、「警察に行ったときに、何か書面(何の?不明…)はもらってないんですか?くれなかったということは、保護命令が必要なケースに該当しないと判断されたのかも。もし申立てするなら、まずもう一度警察に行ってもらうところから…。」云々。
結局、保護命令については「私の場合は申立てなんてできるようなケースではないに違いない」という感覚と、「いや、きっと難しく考えずにともかく申立てはしておいたほうが良いのだろう」という考えとが拮抗してよく分からないまま、頭の中で立ち往生していました。
離婚調停については、「なるべく早く調停を進めて、面会交流するように持って行きましょう。」と言われました(ちょっとびっくり)。
「いずれにしても是非僕に委任してください。」と言われましたが、後に実際に自力で保護命令申立を経験した結果、この弁護士は(少なくとも私が申立てをした地裁での)申立ての実績はなかったことがよく分かりました(他の地裁では経験があるのかもしれませんが)。この時の私には分かりませんでしたが、後になって、頼まなくて正解だったと思いました。
保護命令を申し立てるべきという気持ちと、申し立てるべきではないという気持ちが半々でストップしていたときに、自治体の相談窓口の担当者さんが、相手方がこちらの行方を追っている動向があったという情報をたまたまキャッチして、申立てをしたほうが良い、と強く勧めて来られました。
申立ての準備
ここからは、あくまで私が申立てをした地方裁判所の、私のケースでのお話です。裁判所により、申立て時期により、個々のケースにより、大きく話が違ってくるかもしれません。
気持ちが申立てをする方向に向き、地方裁判所へ問い合わせてみました。
裁判所には申立てのための書類は置いておらず、指定された配偶者暴力相談支援センターで書類をもらって説明を受けるように指示されました。
「保護命令申立のためには、まずは警察に行かなければ始まらないと弁護士に言われましたが、警察ではなく配偶者暴力相談支援センターに行かなければならないのですね?」と確認すると、警察は保護命令申立については関知していないので、警察に行っても「はぁ?」って言われるだけですよ、とのこと。
(補足:原則として、警察か配偶者暴力相談支援センターかいずれかに概ね一ヶ月以内に相談していなければ、いきなり裁判所に保護命令を申し立てることはできません。もし、いきなり申し立てる場合は、宣誓供述書が必要です。私が申立てをした地裁の実務では、配偶者暴力相談支援センターと連携した運用になっているようです。)
指定された配偶者暴力相談支援センターに電話すると、早くした方がいい、早ければ早いほどいい、すぐに(明日にでも)来てください、と言われ、その場で訪問予約を取って、早速翌日ぐらいに訪問しました。
<1回目の訪問>
保護命令申立制度の概要や申立書の書き方について説明を受けました。
それを踏まえ、用紙を持ち帰り、次回の面談日までに一度申立書を作成してみてください、と指示されました。文例の見本を渡されましたが、要返却だったため現在手元には残っていません。
<2回目の訪問>
数日後に、内容チェックのための面談に行きました。
書き方の説明は受けたものの、いざ家に帰って一人で作成に取り掛かると疑問点もいろいろ出てきたり、思い出したくない出来事の詳細を思い出して整理する作業や、文章を考える作業にも苦しんで、なかなか捗らず…。一通り書き上がったものを持って行く予定でしたが、この時点で半分ほどしか出来ていませんでした。この日は、出来た所まで添削してもらい、疑問点について再確認して、再び家に持ち帰りました。
<3回目の訪問>
概ね全部出来上がった申立書と証拠書類を持参して、2度目のチェック面談に行きました。内容を確認してもらって、帰宅後、再度この時のフィードバックを反映した修正作業を行いました。
<4回目の訪問>
3度目のチェックを受けました。「よく書けていると思います。」とのことで、この後、家で細かな修正点を反映して清書し、申立て当日に、配偶者暴力相談支援センターで最終確認してから裁判所に行く流れになると言われました。
帰る前にその場で自分で地方裁判所に電話をかけ、申立日を予約しました。
<5回目の訪問>
申立て当日。
清書をチェックした後、必要部数をコピーしてくれました。
保護命令の申し立てがあったことを知って激昂する男性は多いので、申立て後、保護命令が発令されるまでの間しばらくは、絶対に安全な場所に居るように、という注意喚起と、配偶者暴力相談支援センターでは、DVの相談を受けたことを証明する書面を発行することができ、証明書として使用できる場面もあるので、保護命令の申立てが万一認められなかったときは、証明書の発行を希望する旨申し出るように、とのお話しがありました。
また、これまでの私を見ていて、ポーカーフェイスが若干気になる、との指摘がありました。ポーカーフェイスがマイナスに働いて、暴力を受けていたことが実感を持って伝わりにくいのではないかと心配なので、裁判官と直接話せる機会に口頭でもきちんと訴えてください、と言われました。
家を出るまでは、暴力に対して泣いたりすれば、逆上されて一層危険な状況になったため、迂闊に泣くこともできなかったり、半分思考停止させた状態でいないと生きていけない環境に長くいたことが影響しているのかな、と思いました。
保護命令申立て当日の流れ
地方裁判所滞在時間はトータル2時間程度でした。待ち時間がほとんどです。
<事務官と面談>
約束の時間に地方裁判所に行くと、予約の電話のときにお話しした事務官の方が受け付けされました。必要書類一式を提出し、チェックを受けます。
事務官の方が申立書を隅々まで一字一句指でなぞりながら、内容を詳細に確認して行きます。疑問点・不明点・裁判官から突っ込まれそうな箇所を徹底的に潰して行き、その都度、その箇所に付箋を貼って補足メモを書き込んで行きます。事務官の方とのお話しが終わると、事務官から書記官へ引き継がれる間、一旦待ち時間が発生します。
<書記官と面談>
事務官との面談同様、書記官の方とも、不明点などを裁判官との面談前に徹底して潰す作業を行いました。ここでもさらに付箋を貼りつけて行きます。書記官からの質問の中には、家を出てから保護命令を申し立てるまで、それなりに時間が経過しているのは何故か、というものもありました。
申立書本体には、申立人住所として以前の住所(相手方の住所)を記載していたので、裁判所用に引越し後の実際の住所を届け出る書面を、この時に書いたような気がします。
引っ越しをして住民票も移した後だったので、新しい住所が明らかになると困ったことになってしまうにも関わらず、申立てには私の住民票写しの提出が必須ということで、扱いについて裁判官と相談するとのことでした。結果的に、裁判官が住民票写しの現物を確認した後で返却してもらえることになりました。
添付書類中に載っている情報の中で、申立て手続きのためには直接必要がなく、開示されると不都合があるものについて、マスキングする手続きもこのときにしました。具体的には、両親の本人確認書類として提出したクレジットカードのコピーの、カード番号やセキュリティコードが対象となりました(カードが使用出来てしまうので)。
書記官から裁判官へ引き継がれる間、再度待ち時間がありました。
<裁判官と面談>
書記官も同席し、いよいよ裁判官と面談です。事務官と書記官の二人のフィルタをすでに通っているので、この段階で新たに聞かれることはほとんどありませんでした。が、診断書がないことについて、病院に行かなかったのはなぜか、と突っ込まれたことは記憶しています。裁判官との面談はほんの数分だけであっけなく終了し、拍子抜けしました。5分もかからなかったと思います。配偶者暴力相談支援センターで言われたような、口頭で積極的にアピールするような場ではありませんでした。
相手方を呼び出して事情を聞く審尋の日程を伝えられ、その日のその時間帯は、安全のために裁判所周辺には来ないように、と注意を促されました。審尋の際に相手方が裁判所で暴力を振るう可能性がありそうか、についても聞かれました。
保護命令発令
相手方の審尋当日、審尋を終えて相手方が帰宅したタイミングで書記官から電話があり、保護命令が発令されました、と伝えられました。
その後、保護命令の謄本と、使用せず余った郵便切手は、確か郵送してもらったと思います。